2024年11月5日放送 - ほ:誇る文豪 田山花袋


 日本の自然主義文学をけん引した明治の小説家:田山花袋。

1872年に現在の館林市に生まれ、18歳の時に尾崎紅葉に弟子入り。その後、小説家としてデビューした後は「蒲団」や「田舎教師」などの名作を発表し、生涯を通じて多くの作品を発表し続けました。

 

 

そもそも『自然主義文学』とは、人間のあるがままの姿をそのまま描き、人の美しい部分だけを取り上げるのではなく、みにくい部分も包み隠さず描写するという当時としてはとても斬新な考え方を指します。

その為「蒲団」が発表された当時は、これまでの小説とは一線を画す作品として大きな反響を巻き起こしたのです。

 

 

このように数々の名作を世に遺した花袋ですが、中にはちょっと異質な作品もあります。

それは1918年に発表された『温泉めぐり』。

皆さんはこの作品の中身をご存じでしょうか?

 

 

実は田山花袋は大の温泉好きであり、まだ自動車も無く、鉄道も今ほど発達していなかった時代に北は北海道から南は九州まで、数々の温泉を旅しています。

そしてそれぞれの温泉を花袋の独自目線で評価して書き記したのがこの本。もちろん大絶賛している温泉も多いのですが、中にはそこまで言わなくてもいいんじゃないかというくらいけちょんけちょんにけなしている温泉もあるのです。

 

 

そして本の中には、現代人では信じられないような記述もあります。

それは、花袋が草津や伊香保など群馬の温泉を訪れた時のことを書いた文章なのですが、

 

 

“私は信州の渋温泉から、上下八里のけわしい草津峠を越して、

白根の噴火口を見て、草津に一泊して、

そしてそのあくる日は伊香保まで十五、六里の山路を突破しようというのであった。”

 

 

渋温泉というのは長野県の北部にある温泉街ですが、ここから徒歩で県境の峠を越えて草津で一泊し、翌日には再び徒歩で伊香保へと訪れています。

1里は約4kmですから、この2日間だけでも移動距離は約100km。しかもその道中のほとんどは徒歩で峠の上り下りをしているのです。

 

 

ただこの本を書いたのは花袋が40代半ばの頃であり、若い頃に自分が行った旅を回想して書いているようです。その為、本の中では、

 

“今ではとてもあんな芸当は打ちたくても打てなくなった。

旅は若い時だとつくづく思わずにはいられまい”

 

と締めくくっています。

いやいや、現代人は若くてもそんな事できませんとツッコみたくなるようなことを、花袋は平気でやっていたのです。

 

 

そしてこの『温泉めぐり』ですが、今でももちろん販売されています。

書店でもAmazonでも購入可能ですので、温泉好きの皆様は是非手に取って読んでみて下さい。

 

 

2024年11月5日

M-wave Evening Express 84.5MHz『上毛かるたはカタル』

 

KING OF JMK代表理事 渡邉 俊