沼田市から国道120号線で日光方面に向かうと現れる名勝『吹割の滝』。
一般的に『滝』と聞くと、高い所から落ちてくる水を見上げることを想像しますが、吹割の滝は水が地中に流れ落ちていくのを上から見下ろす形の滝です。
このように見下ろす滝は海外であれば『ナイアガラの滝』が該当しますが、日本国内では大変珍しく、その為、吹割の滝は別名『東洋のナイアガラ』と呼ばれています。
今から約900万年前、火山の噴火で発生した大規模な火砕流が冷え固まり、それを片品川が長い年月をかけて削っていったことで現在のような滝が出来上がったと言われています。
まるで大地が裂けたかのように水しぶきを吹き上げて流れ落ちる様はまさに圧巻の眺めであり、年間約80万人の観光客が日本各地から訪れます。
さてこの吹割の滝。
今からちょうど100年前の1922年に、ある方がこの吹割の滝を訪れ、その時のことを本に書いています。それは誰なのか、皆さんはご存知でしょうか?
その人は、戦前の日本を代表する歌人『若山牧水』。
牧水は宮崎県で生まれ、晩年は静岡県の沼津市に暮らしていたので、群馬にゆかりがある訳ではありません。しかし彼はその43年の生涯の中で実に8回も群馬を訪れている、生粋の『上州マニア』。
そしてその時のことを綴った本『みなかみ紀行』は、日本近代文学の中で最も優れた随筆として知られています。
1922年10月14日。牧水は沼津の自宅を立って軽井沢から嬬恋村に入り、その後草津温泉、四万温泉、老神温泉などを巡って10月26日に吹割の滝を訪れます。
そして、その時に綴った文章がこちら。
“見る限り一面の浅瀬が岩を覆って流れているのはすがすがしい眺めであった。それが集るともなくひと所に集り、やがて凄まじい渦となって底深い岩の亀裂の間を轟き流れてゆく。岩の間からほとばしり出た水は直ぐそこにたたえて静かな深みとなり、真上の岩山の影を宿している。土地の自慢であるだけ、珍しい滝であった。”
この一文が私は何となくお気に入りです。
静かに流れている片品川がいきなり轟く滝となって流れ落ち、また静かな流れに戻っていくという吹割の滝の特徴を見事に捉えており、いや~詩人だなあと思ってしまうのです。
ちなみにこの『みなかみ紀行』は岩波書店から文庫本として発行されており、今でもAmazonなどで売っております。けやきウォークの紀伊国屋書店でも売っているのではと思いますので、ご興味ある方は是非読んでみて下さい。
吹割の滝のみならず数多くの群馬の名所が若山牧水の独特の目線で紹介されています。牧水の目にはこんな風に映っていたんだ!とちょっと感心してしまうような内容ですので。
2022年7月26日
M-wave Evening Express 84.5MHz『上毛かるたはカタル』
KING OF JMK代表理事 渡邉 俊