2023年5月16日放送 - か:関東と信越つなぐ高崎市


 北関東の交通の要衝である高崎市。

古くから商業の街として、また江戸時代には中仙道の宿場町として栄え、『お江戸見たけりゃ高崎田町』と謳われるほどの賑わいを見せていました。

 

 

さて以前もお話しましたが、上毛かるたは1947年に県民の公募で札に読む題材を決めました。

その結果高崎は、白衣観音や少林山、多胡碑などの札が詠まれていますが、実はそれらと同じくらい公募数があったにも関わらず採用されなかった高崎市内のある場所があります。

 

 

それは、現在の高崎駅から少し南の所にある『佐野の渡し』。

近くに烏川があり、昔はここに船をたくさん並べて橋を作り渡っていた場所です。

 

なぜここが札の候補?と思うかもしれませんが、この場所はあの徳川家康が愛し、また戦前には国語の教科書にも掲載されていた為に当時の国民なら誰もが知っていた『鉢木(はちのき)』という能の演目の舞台なのです。

 

 

皆さんは『鉢木』のお話、ご存じでしょうか?

 

 

 

 

時は鎌倉時代。上野国の古びた家に『佐野源左衛門常世(つねよ)』という男が住んでいました。

男はもともとこの一帯の領主でしたが、一族に騙されて領地を奪われ、貧しい生活を送っていたのです。

 

 

ある大雪の日、この家に一晩の宿を求めて僧侶がやってきます。

家には何もなく常世は困ってしまいますが、追い払うこともできず、大切にしていた梅・松・桜の鉢の木を囲炉裏にくべて暖を取り、もてなしたのです。

 

そしてその囲炉裏を囲みながら、「今は落ちぶれているが、幕府に何かあればすぐに鎌倉に駆けつける覚悟だ」と僧侶に語ります。

 

 

するとその数か月後、幕府から関東の武士達に召集命令が下ります。もちろん常世もボロボロの鎧と刀で鎌倉へと向かったのですが、そのみすぼらしい姿を見た他の武士達は大笑いします。

しかし、その集まった先で常世は幕府から呼び出されます。おそるおそる前に進み顔をあげると、そこにはあの大雪の日の僧侶が立っていました。

 

 

なんとその僧侶は、鎌倉幕府の前執権である『北条時頼』だったのです。

 

 

時頼はあの日の話通り、本当に鎌倉へ駆けつけてくれたことを褒め称えます。そして、時頼をもてなす為に囲炉裏にくべた梅・松・桜の鉢の木にちなんで、加賀の梅田、越中の桜井、そして上野の松井田の3つの領地を常世に与えた・・・という話です。

 

 

 

当時高い知名度を誇ったこの話が上毛かるたに採用されなかった理由は定かではありません。その為、現在は知らない人も多いですが、身分の高い人がそれを隠して行動するという水戸黄門のようなストーリーが当時多くの人々を惹きつけました。

 

 

現在この常世の家の跡地には『常世神社』があり、今も地元の人達に親しまれています。

 

 

2023年5月16日

M-wave Evening Express 84.5MHz『上毛かるたはカタル』

 

 

KING OF JMK代表理事 渡邉 俊